ハイク以上の長文

ブクマはやばいよ、スターを押しな、スターを。

映画と写真展

早く行かないと公開終了してしまうと映画と展覧会へ出かけた。

映画1本目は『サンダーロード』。これは週半ばくらいに鑑賞。仕事の都合で冒頭5分ほど見られなかったのだけど、笑いとほんの少し切なさが入り混じる超いい作品だった。私が見始めたときは母の葬式場面。独特な死の弔い方ながら亡き人を思えばそれもまたありだと思うが、やはり葬式というシチュエーションで踊るのは突飛すぎる。その姿を動画に収められてしまい、YouTubeにアップされ、瞬く間にクレイジーなやつと思われるハメになる主人公・ジムは妻と別居中の警察官。妻には恋人がおり、ひとり娘の親権をめぐり争うことに。

トロールの相棒が唯一の友達でエキセントリックなジムのよき理解者。親権争いに負け、自暴自棄になって引きこもるジムを心配し、様子を見にきた相棒の「トランプでもしようぜ」のセリフに笑ってしまう。
クライマックスに近づくと思わぬ展開になり、目を見開く。親友のはずの相棒に「近所のよしみだろ」っていわれてえっ?!(友達じゃないの?)という顔をするジムに笑う。

親子の物語でもあり、男の友情物語でもある。キティちゃんのCDラジカセ、健康に悪そうな色のセブンイレブンのジュースといった備品や、セリフの言葉遊びの愉快さも見どころ。冒頭部分が見られなかったのでもう1度見に行きたい。監督、脚本さらに主演まで担当しているジム・カミングスの今後の作品もとても楽しみ。

2本目は大森立嗣監督作品の『Mother』。女性版の連チャンパパだった。パチンコ狂いでいつも金がない。日常的に親や妹に金を無心し、すぐキレるシングルマザーの秋子が主人公。そんな母に翻弄される長男の周平*1は犠牲者だ。秋子はチャラいホストに入れ込んだあげく妊娠し、それを明かすと早々に捨てられてしまう。
周平が10代半ばとなった頃、家族で生活支援を受ける。周平は学校に通い始め家庭以外の世界を知り、その世界に楽しさを見出す。また夜逃げというところで、勇気を出して自分の意思を伝えるも秋子に一蹴され無残に砕け散る。挙句、金のために祖父母を殺害することに。

この映画を見ていると、どこに生まれ落ちるか、それ自体がガチャとしか思えなくなってくる。子供は親を選べないとは言うけど、それにしたってキツい。実話*2を元にしているから余計にキツさや絶望度が増す。この映画のモデルになった少年は事件を起こしたから見つかった。しかし、事件を起こさなければ闇が露わになることはなかったのだ。この社会にはこうした見えない闇がいくつも潜んでいるのかもしれない。そう考えただけで、己の無力感に打ち拉がれてしまう。

ちなみに一番怖かったシーンは幼い周平が祖母に「お前の顔なんかもう2度と見たくない!出て行け」とヒステリックに罵られるところ。チビる。トラウマになってばあちゃんの顔見ただけで動けなくなってしまいそう。祖母役を演じた木野花さんもメンタルちょっとやられたんじゃないかと思ったり。
主人公の毒婦を演じた長澤まさみさんの顔のアップシーンが何度かあり、あぁこの人はこういう機微を表現できる役者だったのかと感心。最後のシーンでふっと口角をあげ笑みを浮かべるような顔はおぞましくもあり、また母の自信でもあり、なんとも言えない気持ちになってしまった。

東京都写真美術館に「写真とファッション展」を観に行く。森山大道展を含めたほうがお得と勧められて、森山大道の写真展も観る。新宿ゴールデン街や池袋の歓楽街などのスナップ。街行く人の姿もいくつか写る。足元や後ろ姿。顔。それらの写真をぼんやり観ていて、森山大道はコロナ禍の日本を、東京をどう撮るのだろうと思う。新しい生活様式なるものをどう捉えているのだろうかと気になった。ご高齢なのでこういう時世で新作を期待するのは酷だけど、新作を観ることで今を受け入れることができそうなそんな気がした。

お目当ての「写真とファッション展」は懐かしさでいっぱい。90年代ファッションがテーマの展示。

アンダース・エドストロームマルタン・マルジェラの撮影やフランスのファッション誌『PURPLE』*3のカバー写真やファンション写真を撮っていた写真家。誌面と写真とを対比させるような展示で実際の写真と誌面掲載での差の面白さや、アザーカットの展示、舞台裏の写真など当時のPURPLEの制作現場をうかがい知れて感極まる。高橋恭司さんの写真は90年代そのもので懐かしい以外の言葉がみつからない。
エレン・フライス*4コズミックワンダーの前田征紀さんがそれぞれ田舎暮らしを始めていたと知る。エレン・フライスはフランス北部の村で田舎暮らしをしており、その日々のスナップをスライドで展示。かまどか石窯のようなものを利用していたり、木工や養蜂をする様子が映る。セルフビルドしたと思われる工房の外観がかっこいい。センスのいい人が作るとなんでもイケてるなと思う。前田さんは草木染めをした和紙や紙を展示。おそらく自身が暮らす京都の山で採れたもので染めたのだろう。

ホンマタカシの写真はミリタリーファッションに身を包んだ沖縄の若者たち。写真の構図が郊外の10代を撮った過去作品を彷彿とさせ、これはこれで懐かしさを感じてしまう。撮影中の動画も展示されていて、ホンマさんが被写体に指示しているのかカメラ目線でジャケットの着方やポーズを変える様子が映る。いったいどんな感じで話しかけているのだろう。テンション高くずっと笑顔の男子、終始自分のスタイルを崩さないクールな女子と写真もいいけど、撮影中の個々人の様子に引き込まれた。

帰りにミュージアムショップへ。自分が持っている『PURPLE』*5や別冊が超高くなっていてマジかよ!となる。フランスの雑誌だし、当時も3000円くらいとかなり高価だったけど、こんな爆上げしてんのかい*6。大事にしなければならんな。

渋谷方面まで出かけたときはD&departmentに寄るのが習慣になっている。少々面倒ではあったが立ち寄ると、愛媛展が開催中だった。畦地梅太郎宇和島出身で美術館まであると分かったのが収穫。次回、四国に行く時は猪熊さんと畔地さんツアーにしたい。畔地梅太郎の缶バッチを買って帰る。

*1:推定小4

*2:誰もボクを見ていない』がベースになっている

*3:カルチャー色も強くなぜか向井さんのイラストが載ったことも

*4:前述の『PURPLE』の創刊編集長

*5:2冊しか持っていない

*6:とは言っても2万円くらい