ハイク以上の長文

ブクマはやばいよ、スターを押しな、スターを。

日々雑録

某バンドのボーカルの発言がきっかけで優生思想云々の話ではてなのホットエントリーが盛り上がる。そういう流れで書くのはどうかと思ったが、NHK美術展の宣伝と思われる番組「no art,no life」を紹介したい。ここ最近のテレビ番組*1では久しぶりに画面に釘づけになった。自閉症などの障害を持って生まれた作家の創作現場を写すミニドキュメンタリー。

先週放送の勝山直斗がすごかった。唾液や壁紙を破って壁画を描く、しかも破り捨てた壁紙は口に含み、天井に飛ばして張りつけるという。やっていることはかなり汚い。でも、その汚さ以上に絵がとんでもない力を秘めているのだ。壁一面を大胆に使う構図、創作への欲求はもとより作品の凄みに圧倒される。14歳であの表現力があるなんて天賦の才とはこういう人のことをいうのかと思った。勝山直斗は家庭環境に恵まれず、児童養護施設にいる。ひょっとしたらこの傑出した才能が埋もれずにすんだのはここにいたからではないかと思ってしまうほど。彼自身の出自を不憫に思いながらアート好きとしてはあぁ良かったなんて思ってしまうのだから都合がいいものである。

私はこの番組を2週間前から視聴をスタートした。初めてみたのは松岡里佳だった。勝山直斗ほどのダイナミックさはなかったが、作品はミロコマチコっぽさもあるし、革作品でメジャーになったundoseの木曽嘉子*2の絵も思い出した。動物や人など被写体への彼女なりの愛を感じる温かみのあるタッチが見ていて心地いい。ポツポツなにか言いながら紙に向かって絵を描く姿が愛らしく創作場面から家族の愛*3を感じた。

阿佐ヶ谷ユジクでハル・ハートリー特集をやっていたので「トラスト・ミー」、「シンプルメン」を観に行く。ハル・ハートリーアメリカのインディー系の映画監督。20年近く前に「ヘンリー・フール」を劇場で観たっきりだった。一昨年くらいにDVDおよびブルーレイ化のクラウドファンディングを支援したので全作品のDVDを持ってはいるが、テレビで見るのとスクリーンで見るのとでは訳が違う。そんなわけで映画館へ。
「トラスト・ミー」は毒親に育てられている男女の恋愛物語。主人公はシングルファザーの家庭で父親から虐待を受けている。機械工としての腕は確かだが、曲がったことが大嫌い。その性質ゆえ仕事は長続きしない。ヒロインは妊娠が発覚し彼氏に捨てられてしまった女子高生。娘の妊娠報告により心筋梗塞を起こし、父死去。母親はそんな夫の死を娘のせいにして心の安寧を図ろうとする。子供に依存した非常に厄介な親を横目に二人は恋に落ちていく。

シンプルメン」はチンピラ兄貴と文化系*4の弟をベースにしたバディもの。元メジャーリーガーの父はテロリストであり、目下逃亡中。そんなヤバい父を探すロードムービーでもある。“父がいる”そう確信を得た街で兄弟それぞれが訳ありの女性と出会い、その女性を通じて父を見つけ出す。

ストーリーは「トラスト・ミー」の方がわかりやすく、物語がどう進むのか?とドキドキした。「シンプルメン」は自分には難解だった。両作品ともにゴダールというかアンナ・カリーナを彷彿とさせる演出や衣装が印象に残る。「トラスト・ミー」は「ANNA」、「シンプルメン」は「はなればなれに」。単純にヌーベルバーグ的な世界観が好きというのもありそうだけど、洗練されたフランス映画を自身の作品へ反映させるってかなり気合いがいるはず。それをやってのけており、すごいなと思う。

 

*1:先週土曜日の「情報7days」で見た中国人がとてもよかった。洪水の影響で道路が浸水しているっていうのにデカイ魚を発見してテンション爆上げで我先に獲ろうとしたり、車内が浸水しているのにSNSに上げなきゃ!とつぶやいていたりと非常にポジティブ

*2:忘れられていると思うが、木曽さんは昔のバイト先の先輩なのでさん付けしたくなってしまう

*3:伊丹十三の『静かな生活』を思わせる

*4:専門は理系かも