ハイク以上の長文

ブクマはやばいよ、スターを押しな、スターを。

『アバウト・レイ 16歳の決断』

2月中旬に鑑賞。2015年に公開する予定だった作品。アメリカで公開延期になり、日本でも公開中止になっていたらしい。wikiによるとあのワインスタイン氏も関っていた模様。

邦題が作品の意図を汲んでないなーと思った。原題は「3 generations」*1レズビアンの祖母ドリー、恋多き女異性愛者の母マギー、トランスジェンダーのレイ(女で生まれたが男)の話。レイの性別適合手術をテーマにした家族の葛藤の物語。重々しく成り過ぎず、軽くなりすぎずとバランスのとれた作品だと思った。

役者が豪華でドリーをスーザン・サランドン、マギーをナオミ・ワッツ、レイをエル・ファニングが演じている。三者三様とても魅力的だ。

映画はスケボーのシーンから始まる。この冒頭シーンで気持ちが高まっていく。

ドリーは違いがよくわかっていないのか自分がレズだし、大雑把な感じでレズビアンでいいじゃない!となる。なんとなく年配者あるあるな雑さで笑う。

マギーはそんなドリーとぶつかりながらも頼れる母に精神的に依存していたんだと思う。だからこそドリーはレイの性適合手術とそれをきっかけにした公立高*2への転校を口実にマギーに引っ越してほしいと提案したのだ。

ドリーから引っ越してほしいと言われたマギーは母に見捨てられた。レイが孫“娘”じゃなくなってしまうからだと不安に駆られる。しかし、レイは違った。「やっと普通に生きられる」って喜ぶ。この街の人はレイが女の子の服を着ていた頃のことを覚えてる。それがレイを苦しめていた。心底嬉しそうなレイを見て、あぁこの子はずっと辛かったんだ…と泣く。街の人の記憶はgirlのままで上書きされることはない。

でも、彼がずっと辛かったように母と祖母も辛いのだ。女として育ててきた我が子(孫)を男として受けれ入れる。写真を整理しながらこの時代はピンクね、この時代はブルーねって分ける。そうして心を整理しているようだった。

恋多き母の不貞がきっかけで両親は離婚。未成年のレイの性適合手術のためには父のサインも必要。母がポンコツなので、レイ自身が父のところへ行くとそこには腹違いの妹と弟がいた。

多分、兄弟がいたことが嬉しかったし、彼らに初対面で「お兄ちゃん」と認識されたことがレイにとっては心底嬉しかった。彼らに自分のことを隠さず話す。自分もレイくらいの歳になったらそうなるかな?との問いに、「(二人は性が一致している)luckyだ」と声をかける。

それがマギーの不貞行為相手判明により「ええ!?」という展開になってしまう。せっかく会えた父、そして腹違いとはいえ妹と弟ができた。得たものを一瞬にして失う展開。

実の父、唐突にやってきすぎじゃないか?と思わなくないが、何かを受信したのかもしれない。でも、レイの決心を目の当たりにした戸籍上の父が彼のために動いてくれた。

かくして手術へ一歩前進。彼の望んだ「普通」として生きるスタート。ご都合主義的ではあるんだけど、彼を受け入れてくれる雰囲気がとてもいい。女で生まれたことは不幸だったかもしれないが周囲の人に恵まれたことはluckyだった。

性自認にしろ、病気にしろ生きることは何かしらの荷物を背負う。荷物の量は人それぞれで、その重みの感じ方も人それぞれ。しかし、周囲の人に恵まれることはその重みを少し軽くしてくれる。普通でありたいという人にあなたは普通だって言ってくれる人がそばにいてくれたらそれだけで自分らしく生きられる。自分は自分でいいと肯定感を得られるってluckyなことだ。

*1:『about ray』ってタイトルのときもあったらしい。評価がよろしくなくて二転三転した風

*2:私学に通っていた