ハイク以上の長文

ブクマはやばいよ、スターを押しな、スターを。

犬って

ここ数カ月、文芸誌を読むのが習慣になっている。すべて読むわけじゃなく気になったものを読んでいるだけなので読書量は大したものではない。

電車に乗っているとき、『文藝』のもふもふ号を読み、泣く。読んでいたのはポッドキャストで配信された盲導犬セラフと西島玲那さんの新潟紀行を再構成したもの。ひとりと1匹の初めての遠出を振り返った紀行文だ。

西島さんはセラフと初めての遠出だからと、新幹線に乗り込む前にセラフが用を足せないかと東京駅の駅員さんに相談する。すると、駅員さんに多目的トイレへ誘導されたそうだ。しかし、セラフには盲導犬としてのプライドがあった。それゆえ人間のトイレでなんぞ用は足せぬと断固拒否。人間同士が協議し、一旦外に出て屋外で用を足してもらうことになったという。もうこの時点で盲導犬って、なんてかっこいい存在なんだよって思う。盲導犬といえども個体差があると思うけど、訓練を積んできた自分に自信を持っていることに痺れてしまうのだ。

新潟に着くと、西島さんはバスの乗客や施設の係員といった周囲の人たちに助けられたと話す。セラフだって、自らの職務をまっとうするため西島さんを不安にさせぬように動く。お互い知らぬ道を進むとき、凛としたセラフの佇まいが文章からも伝わってきた。初めて泊まる宿では西島さんの指示に従ってドアや段差の位置を伝え、西島さんが空間を立体で認識できるようにする。セラフはそうやってパートナーである西島さんを支えた。その一方で業務から解放されると西島さんにだけわがままを言ったり、意地悪をすることもあったのだとか。そんなただの犬に戻った話が尊く涙腺が緩む。

しかし、セラフとの出来事を大切そうに語る西島さんのもとにもうセラフはいない。セラフはもうこの世にはいないのだ。セラフを失った西島さんは体の一部が無くなったかのように感じると話し、今はまだハーネスを握っていた手の感触を失いたくないのだとも。

私は知らぬ間に電車の中で鼻水まで流していた。